幻と消えた　メキシコ旅行

　なんということだ！

出発４日前に衝撃的なニュースが入ってきた。
今まで聞いたことのない言葉がテレビのニュース番組から聞こえてきた。

豚インフルエンザ！　何だ、これは！　しかも、メキシコで発生だと！
あっという間に血の気が引いた。
コレはやばい！　人類にとって（少し大げさ？）、そして、何より私にとって（コレ、ホント）。　
でも、なぜメキシコで？　
私をメキシコに行かせない何かの陰謀ではないのか（怒）！
いや、私はそんな大物ではない（笑）。
それにしても、これは一体どういうことなのだ。頭が混乱した。
まるで私の旅行へのピンポイント攻撃ではないか（泣・笑）！


　　　　　　　　　　　　幻と消えたメキシコ旅行・・・・ことの顛末をここに記載し、鎮魂しよう。

　今年のゴールデンウィークは休日の並びがよく、じっとしているのはもったいないと思っていた。できることなら、どこかへ行こうと思っていた。ただ今回は準備期間があまりなく、手っ取り早くツアーを利用することにした。4月にはいってすぐにメキシコツアーに予約を入れた。4月14日には休暇届けを出し、上司からも了解をもらった。毎回快く了解してくださるのはありがたいと思った。

　出発５日前、4月24日（金）夜、女性の添乗員から明るい声で電話がかかってきた。
「２４名様のご出発です。成田でお待ちしております。よろしくお願いします。」
いよいよ私のアメリカ大陸初上陸のときがきたなと、ワクワクしていた。

　ところが・・・・・・・・・・・・、

　4月25日（土）朝、何気なくテレビをつけた。
なんと！メキシコで豚インフルエンザ！。今までに聞いたことがない言葉だ。何だコレは！
　どういうことなのか、何が起こっているのか、意味がわからなかった。ただ、即座に、間近に迫ったメキシコ旅行が危機になったのを直感した。そして、同時にあきらめたくはないという気持ちも起こっていた。

　職場には4月30日と5月1日の休暇届も出してあるし、私としても、そのつもりになっているのだ。

　4月26日（日）、この日は何度もインターネットのニュースサイトを開いた。ひょっとすると、誤報とのニュースが流れてこないかという淡い期待をもって・・・・。
　ところが、次第に状況がひどくなっていくではないか！うーんと考え込んでいたところ、家族から最後のとどめを刺された。これで、やっと決心がついた。
　仮にツアーが催行されるようであっても、明日にはキャンセルの電話をする決意ができた。
　
　4月27日（月）朝、旅行社から電話がかかってきた。「催行中止としました。ツアー代金、全額返金します。」
これで、清々しくあきらめることができた。

　この日の朝一番で職場の上司にメキシコ旅行は行かないことを告げ、休暇も取り消した。
この時点ではどんな事態なのかもはっきりはしていなかった。私が無職や自営業であれば行こうと思えば行ける状況のようにも感じた。ともかく、迷った2日間であった。

　4月29日（水）、これを書いている現在、ニュースでは今朝成田に到着したアエロメヒコ航空機が映っていた。私たちはこの便の折り返し便（14:55発）で出発の予定であった。何事もなければ今頃は機内にいるのかと思うと複雑な気分である。しかし、この状況下でメキシコに出かけたとなれば、テレビで大写しになり、大ひんしゅくを買っていたことだろうと思うと、ぞっとする。

　【4月29日以降、メキシコの全ての遺跡が閉鎖されました。旅行に行ったとしても、ホテルで缶詰状態となっていたことでしょう。催行中止は大正解でした。】

　事態は一向によくはならず、感染者が多くの国に広がっている状況だ。今回の中止だけでなく、夏やこれからの海外旅行全体を考え直さなければならないかもしれない。


　ところで、このページは休暇届けを出した4月14日以降に少しずつ作り始めていた。旅行が実現していれば、メキシコ旅行記のトップページとなる部分である。中止になったのだから、このページは誰に知らせることもなく、あっさり削除しようかとも思った。しかし、何事もなかったかのようにこのページを消し去るには忍びないとも感じ、こういう形で残すことにした。

題して、「幻と消えたメキシコ旅行！」
私の脳内仮想旅行の旅程表としてとどめておこう！
メキシコ旅行記（２００９年）　〜　日本メキシコ友好４００周年の記念の年に〜
私のアメリカ大陸初上陸　　マヤ、テオティワカン、アステカの文明を訪ねて
・・・・・・・・・・という予定が・・・・・・・・・・
幻と消えたメキシコ旅行（私の脳内旅行）　
4月29日（水） 14:55　成田空港発　アエロメヒコ航空（AM057便）　メキシコ北端ティファナ経由
16:20　メキシコシティ着（成田→メキシコシティ　所要時間：１５時間２５分）
【メキシコシティ泊　シェラトンマリアイサベル】
4月30日（木） メキシコシティ市内
ソカロ　メトロポリタン・カテドラル　グアダルーペ寺院　
テオティワカン遺跡　国立人類学博物館
【メキシコシティ泊　シェラトンマリアイサベル】
5月1日（金） ポポカテペトル山腹の修道院群のひとつクエルナバカ大聖堂
タスコ（高度40mの双塔をもつサンタプリスカ教会）
21:15　メキシコシティ発　アエロメヒコ航空（AM647便）→ユカタン州の州都メリダ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（所要時間：１時間５０分）
23:05　メリダ着
【メリダ泊　コンキスタドール】
5月2日（土） ウシュマル（魔法使いのピラミッド、尼僧院、総督の宮殿）
カバー（仮面の神殿）
メリダ市内（ソカロ広場、カテドラル、野口英世記念像）
【メリダ泊　コンキスタドール】
5月3日（日） チチェンイッツア遺跡（ピラミッド型の神殿カスティーヨ、戦士の神殿）
「マヤの天使」の彫刻が残るエクバラム遺跡
バスでカンクンへ向かう。
【カンクン泊　カンクン・カリベ・パーク・ロイヤル・グランド】
5月4日（月） トゥルム遺跡
17:35　カンクン発　アエロメヒコ航空（AM944便）→19:55　メキシコシティ着
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（所要時間：２時間２０分）
23:40　メキシコシティ発　アエロメヒコ航空（AM058便）　ティファナ経由
【機中泊】
5月5日（火） 【機中泊】
5月6日（水） 06:45　成田空港着　（メキシコシティ→成田　所要時間：１７時間０５分）
時差　：　メキシコは広い国なので３つの時間帯があるが、今回の訪問地、メキシコシティ、カンクン、メリダ方面
　　　　　 は同一時間帯で、日本と比べて１４時間遅れ（サマータイム期間）
通貨　：　メキシコ・ペソ　１ペソ＝約７円（2009年4月現在）
気候　：　6月〜9月が雨季　10月〜5月が乾季。
　ゴールデンウィーク
　今年のゴールデンウィークは並びが良い。4月30日と5月1日の2日間休暇をとれば8連休となる。じっとしているのはもったいないとばかりに、早速計画を実行に移しました。ちなみに5月7日と8日も休めば12連休となる。しかし、さすがにそんな度胸はない。戻って来た時、自分の机はあるのだろうか、心配。（笑）

　準備の時間もそれほどなかったので、手っ取り早くツアーに参加しました。ツアーへの一人参加＝大名旅行は、ヨルダン・シリア旅行（2007年夏）以来です。
　大名旅行は、楽ちん、楽ちん！何が一番楽かって？それは食事ですね。一人旅の場合は、一人で食事する適当な店を見つけるのが意外と大変なんです。

　旅のスタイル
　私は特に旅のスタイルにはこだわっていません。一人旅でもツアー参加でもそれぞれ一長一短を感じていて、悪い面に目をつぶり、良い面だけを堪能しようという気持ちでどちらでも行きます。
　いつもは事前に10冊くらいは本を読んで出かけるのですが、今回は時間のせいで読む量が一番少なかった。ほんの数冊に目を通しただけです。

　今回のテーマ
　今回のテーマは古代メソアメリカ（マヤ、テオティワカン、アステカ）の文明を巡る旅です。そして、私にとっては、初めてのアメリカ大陸上陸です。

　ユーラシア大陸とアメリカ大陸は文明の造りが違っているように感じます。ユーラシアは韓国からポルトガルまで地続きなんですね。これが実は大きい。『深夜特急』の沢木耕太郎さんじゃないけど、乗り合いバスで行こうと思えば行けるというのが大きい。
　アメリカ大陸は1万2000年ほど前にベーリング海峡でアジア大陸から切り離れたため、独自の文明が造り上げられたのでしょう。今回の旅はその独自性に注目です。
　【ほぼ３万５０００年前にアメリカ大陸への人類の移動が始まり、９０００年前には今のアルゼンチンのパタゴニアにも人類が住んでいる。】
（参考文献）『物語メキシコの歴史』p.10 大垣貴志郎 中公新書 2008年2月25日刊

　文明の造り方
　ユーラシアとアメリカ大陸では文明の造り方が違うようです。

　何が違うかって？

　ユーラシアの４大文明は大河の流域に発生しました。しかし、メソアメリカ（マヤ、テオティワカン、アステカ）には大河はありません。鉄も車輪も知りません。大型家畜（牛馬）もありません。ユーラシアの４大文明から見ると、遅れた石器時代のままです。しかし、精巧なピラミッドを建設し、ゼロの概念や天文学の知識は豊かでした。

　新大陸を「発見」したヨーロッパ人から石器時代としてバカにされたのかどうか知りませんが、マヤやアステカ、それに中央アンデスのインカの文明も文明として認知されませんでした。先住民は虐殺と教化の対象にされたのでした。特に、アステカは完全に破壊され、現在のメキシコ・シティの地下に埋もれてしまいました。

　ユーラシアにあっては、アジアを見下すヨーロッパ中心主義史観は批判されたりします。しかし、新大陸から見れば、ユーラシア４大文明史観そのものが、ユーラシア中心主義として見直されるべきでしょう。

　そういった見直しも進みつつあります。最近の著作では世界６大文明という記述を目にするのです。従来の４大文明に加えてメソアメリカ文明と中央アンデス文明（インカ文明など）を合わせて６つの古代文明という考え方です。
（参考文献）
『物語ラテン・アメリカの歴史』増田義郎　中公新書1998年9月25日
『古代メソアメリカ文明』p.21　青山和夫　講談社選書メチエ　2007年8月10日刊
　
　ともかく、メソアメリカや中央アンデスの文明はスペイン人によって征服、破壊されました。
　ただ、これを征服として断罪しただけでよいとも思いません。実際、征服者と先住民の混血はすすみ、メスティソが生まれました。そして、彼らが現在のメキシコ人の主流を占めているのです。コロンブスの新大陸「発見」は「出会い」の始まりとも言えるのです。虐殺やヨーロッパから持ち込まれた病気での死亡は残念でしたが、出会いによって生まれた新たな人々は祝福されなければなりません。こういった意味から一概に征服を全面否定はできないと思っています。禍福はあざなえる縄のごとしです。　

　世界遺産
　メキシコの世界遺産・・・メキシコには２９箇所の世界遺産が登録されています（2009年5月現在）。これは南北アメリカ大陸の国の中で最大の数です。世界でも６番目に多い国です（1位：イタリア43箇所　　2位：スペイン40箇所　　3位：中国37箇所　　4位：ドイツ33箇所　　4位：フランス33箇所　　6位：メキシコ29箇所・・2009年5月現在）

今回の旅では、このうち、次の５箇所を巡ります。

１　メキシコシティ歴史地区
２　古代都市テオティワカン
３　古代都市チチェン・イッツァー
４　古代都市ウシュマル
５　ポポカテペトル山腹の16世紀初頭修道院群

　日本・メキシコ友好年
　日本人にとっては、アメリカ大陸先住民は遠い人ではありません。今から１万年２０００年以上前の氷河時代、ベーリング海峡が陸続きであった時代に、アジア東北部のモンゴロイドが現在のアメリカ大陸に渡って行ったのですから、私たちモンゴロイドの一人としては、今回の旅はかつての同胞を訪ねる旅とも言えます。
　奇しくも、今年２００９年は日本・メキシコ友好４００周年です。日本とメキシコとの友好関係の始まりは、海難事故がきっかけでした。１６０９年、スペイン領フィリピンからヌエバ・エスパーニャ（現在のメキシコ）に向かっていた船が座礁し、（現在の）千葉県御宿町の海女さんたちが乗組員３００人あまりを救助したことに始まります。
　私もメキシコに足跡を残し、友好の輪を少しだけ広げてこようと思っています。
亡くなった方々に対し、謹んで哀悼の意を表し、ご冥福をお祈り致します。
そして、豚インフルエンザが速やかに収束することを願っています。