十字軍の城塞　クラック・デ・シュヴァリエ（南側から眺める）

ダマスカスから北に向かって約１５０キロほどの所にホムスの街があります。そこから東に向かえばパルミラに行きますが、私たちはまず西に向かいます。ホムスから４０分ほど走ったでしょうか、突然、目の前に大きな城塞が姿を現します。十字軍によって造られた城塞、クラック・デ・シュヴァリエです。天空に浮かぶかのように、小高い丘の上に建っています。 以下の記述は（参考文献）『物語 中東の歴史』をまとめたものです。 　この地ははるか昔より要衝の地であり、エジプト新王国時代に既に城が造られていました。それをラムセス２世（紀元前１３世紀）が改修したとも伝えられていますが、その跡は全く残っていないといわれています。 　１０３１年、ホムスの太守がこの丘の砦の跡を改修してクルド人傭兵隊を駐屯させました。しかし、１１１０年、第一回十字軍の際につくられた十字軍国家、アンティオキア公国によって奪われ、その後城はさらに強化されていきます。以来１６２年間、この城はイスラム世界ののど元に深く突き刺さった骨のような役割を果たすのです。城主はアンティオキア公からトリポリ伯へ、１１４２年には聖ヨハネ騎士団に移りました。いずれもキリスト教徒（十字軍）の彼らによって、さらに増改築が進められ、十字軍最強の砦となりました。 　十字軍後の混乱したシリアを統一したヌールッディーンもこれを陥落させることはできませんでした。次に登場するのが、ヌールッディーンの家来であったサラディンです。彼はアイユーブ朝を開いた人物であり、１１８７年十字軍国家の一つであるエルサレム王国を滅ぼしましたが、クラック・デ・シュヴァリエは陥落させることはできません。１２０７年には彼の弟のアル・アーディルも試みたが、結果は同じでした。こうして難攻不落の要塞、クラック・デ・シュヴァリエは１３世紀前半に全盛時代を迎えます。現在の形になったのもこの時期だとされています。この城塞は２０００人の兵士を収容できたとされています。 　サラディンでさえ陥落させることができませんでしたが、１２７１年、マムルーク朝のバイバルスの謀略によってあっけなく明け渡されました。バイバルスも苦戦していましたが、策略を考えつきました。「降伏せよ」という偽の命令書を作り、それを信じさせることに成功しました。敵をまんまとその術中に陥れたのです。それ以来、この城はイスラムの支配下におかれることになりました。戦わずして明け渡しが成功したことにより、砦は破壊されることなく、現在私たちが目にすることができるのです。 　ここが陥落することにより、十字軍の完全敗北は時間の問題となりました。 　１９２０年、シリアとレバノンはフランスの委任統治下となります。１９２８年、フランスからの調査団がここにやってきて驚きました。城塞内部には農民５３０人が住み着いていたのです。農民は１９３４年には麓の村に移転させられ、遺跡の調査と整備が進められていきます。 （参考文献）物語 中東の歴史―オリエント5000年の光芒 (中公新書) p.225〜235 牟田口義郎著　2001年7月15日刊 クラック・デ・シュヴァリエは２００６年に世界遺産に登録されました。

水道橋　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　深い壕

厩舎の内部　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　砦の最上部

ゴシック式回廊（十字軍による）　　　　　　　　　ミンバルとミフラブ（イスラムによる）

砦の最上部からの眺め

砦の一部屋で昼食

（追記　2013/07/20）　シリア内戦でクラック・デ・シュヴァリエが空爆されました

2013年7月15日配信のAFP＝時事通信の写真より

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