ティエンムー寺

ベトナム戦争の時、焼身自殺した僧侶がサイゴンまで乗っていった車

僧侶ティック・クアン・ドック、身動きひとつせず焼身自殺

1963年6月11日のことです。

ゴ・ディン・ジェム南ベトナム大統領の仏教弾圧に抗議した僧侶ティック・クアン・ドックはサイゴン（現ホーチミン）のアメリカ大使館前で自らガソリンをかぶって焼身自殺をしたのでした。僧侶や市民が手を合わし、涙を流しながら見守るなか、座禅を組み、燃えさかる火の中で身動きひとつしない彼の姿は衝撃的でした。

この必死の抗議に対して、ゴ・ディン・ジェム大統領の実弟の妻が言い放ちました。

「仏教徒が何をしたの？坊主のバーベキューをしただけでしょ。しかも、米国から頂いたガソリンをもらって」

さすがの米国政府もゴ・ディン・ジェム政権を見放します。
軍事クーデターを起こし、ゴ・ディン・ジェム大統領を射殺しました（1963年11月2日）。

この辺の事情については、NHK『映像の世紀』第9集「ベトナムの衝撃」を見てくださいね。

　　　　　　　　　　　　　　　　　以下、余談として（私のメモ帳から）

ティエンムー寺は「天女の寺」ということですが、ベトナムの天女には翼があるか？

天女には翼があるか、ないか？・・・・・その違いは地域によってわけることができる。ごくおおざっぱにいえば、西アジアから中央アジアにかけて、天女には翼がある。それより東には翼がない。
『儒教・仏教・道教』p.42 菊池章太講談社選書メチエ 2008年12月10日刊

キリスト教の天使、ギリシアのキューピッドには翼がある。、
さかのぼればペルシアにたどり着く。もっとさかのぼればアッシリアにたどり着くであろう。
翼が生えた存在というのは、オリエント世界がひとつの発祥地である。
『儒教・仏教・道教』p.43

もともと翼のないものが翼をもつことによって、本来の能力を超えた能力をもつことができる。それは、歴史的にたどればオリエントが発祥地と言えようし、そのような発想はいろいろな民族に共通しているとも言える。
『儒教・仏教・道教』p.44

ゾロアスター教のアフラ・マズダにも翼がある。
『儒教・仏教・道教』p.45

神性を持った存在に翼があるという発想は、西へ伝わってキリスト教の天使にあらわれた。かたや東に伝わって仏教の天人（てんじん）としてあらわれることになる。
『儒教・仏教・道教』p.50

中国へ入ってくるとなぜ天人の翼がなくなるのか。・・・
中国人は身体を傷つけたり損なったりすることを極端なほどきらう。ほとんど恐怖に近い。人としての責任をまっとうしていくために、これは是が非でも守らなければならない。そこに儒教の教えが頑としてひかえている。それほどまでに欠如を忌避する彼らは、同時に過剰をも嫌悪したのではないか。だから翼などという異物を許容できなかったのであろう。天空を舞うのにそんなものはなくてもさしつかえない。このことは中国思想のなかで捉えるべき問題だと思う。
『儒教・仏教・道教』p.57～58

翼がなくなった天人は、中国の周辺へも広まっていった。韓国でも日本でも天人には翼がない。
『儒教・仏教・道教』p.73

かつて広い中国を翼なしで飛び回っていた天女は、日本へ来ると羽衣なしには飛べなくなってしまった。
『儒教・仏教・道教』p.76

以上の論から推察すると、ベトナムの天女にも翼がなかったのだと思います。